水稲の防除でよく聞かれるのが「どの農薬が効きますか」という質問です。もちろん薬剤選びは大事なのですが、現場で結果を分けているのは、それ以上に「いつ撒いたか」であることが多いように感じています。同じ薬剤を使っても、適期を1週間外しただけで手応えがまるで違う、という話は珍しくありません。
私は栃木県下野市でKONA-DRONE(コナドローン)というドローン事業を運営し、DJI Agras T25という農業用ドローンで水稲を中心に農薬散布を請け負っています。夏場頻繁に圃場を回っていますが、防除の依頼を受けるときに一番調整に気を使うのが、この「日取り」です。
この記事では、水稲の主要な病害虫であるいもち病・斑点米カメムシ類・紋枯病について、生育ステージごとの防除適期を整理します。あわせて、ドローン散布を依頼する場合に、いつ頃どう動けばよいのかというスケジュールの組み立て方もまとめました。
ドローン散布そのものの仕組みや料金の目安については、ドローン農薬散布とは?仕組み・料金・注意点を解説で詳しく書いていますので、あわせてご覧ください。
なぜ「適期」で結果が変わるのか
農薬には、病原菌や害虫に対して効果を発揮できる「窓」があります。
たとえば予防効果を主体とする殺菌剤は、病斑が出てから撒いても手遅れになりやすく、発病する前に葉や穂の表面を守っておく必要があります。逆に、害虫の場合は圃場に入ってくるタイミングに合わせないと、撒いた薬剤が効いている間に虫が来ない、あるいは効果が切れた後に来る、ということが起こります。
つまり適期とは、薬剤の効果が続いている期間と、病害虫が加害する期間を重ねる作業です。この重なりが浅いほど、防除の効きは悪くなります。
もうひとつ見落とされがちなのが、稲の側の都合です。穂ばらみ期(穂が葉鞘の中で膨らんでいる時期)や出穂期は、稲にとって最もデリケートな時期でもあります。この時期の薬害を避けるために、ラベルで使用時期が細かく決められている薬剤もあります。
この点で現場からよく聞くのが、「地域でまとめて行う共同防除の時期が、自分の田んぼの生育と合わない」という声です。
共同で行う防除は、日程が先に決まります。一方で出穂の時期は、品種、田植えの時期、その年の気象によって圃場ごとにずれます。決まった日程のほうに生育を合わせるというのは、現実には難しい話です。それでも、地域の取り決めや作付けの事情から、共同防除には参加しておきたいという方は少なくありません。
そこで実際によく取られているのが、1回目は共同防除で受けておき、そのうえで自分の圃場の出穂に合わせて、2回目を個別に依頼するという組み立てです。特にカメムシは穂が出てからのタイミングがものを言うので、「1回目は共同で、カメムシ防除は適期に個別で」という形に落ち着いている方が多い印象があります。
これは共同防除に意味がない、という話ではありません。地域全体で一斉に防除することには、面としてまとめて虫の密度を下げられるという役割があります。ただ、それだけでは自分の圃場の適期をカバーしきれない年がある、ということです。個別に依頼する散布は、この「ずれ」を埋める使い方が向いています。
水稲の生育ステージと防除の関係
防除暦を読むうえで前提になる用語を、簡単に整理しておきます。
分げつ期〜幼穂形成期(6月〜7月中旬ごろ)
株が増え、葉が茂っていく時期です。この段階で問題になるのは主に葉いもちと紋枯病の初期発生です。ここで抑えられるかどうかが、後の穂への被害に効いてきます。
穂ばらみ期(出穂の7〜10日前ごろ)
穂が葉鞘の中で膨らみ、株を触ると太くなっているのが分かる時期です。穂いもちの1回目の防除、そして稲こうじ病の防除がこのタイミングになります。稲こうじ病は出穂の10〜14日前という、かなり限定された窓しかありません。
出穂期・穂ぞろい期(8月上旬ごろ)
穂が出そろう時期です。穂いもちの2回目と、斑点米カメムシ類の防除が重なります。1年でいちばん散布依頼が集中するのがこの時期です。
乳熟期〜登熟期(出穂後1〜3週間)
籾が実っていく時期です。カメムシの追加防除を検討する期間にあたります。
この「前倒し」は感覚の話ではなく、県の資料にも明記されています。
栃木県は、高温により水稲の生育ステージが1週間程度早まっており、気温上昇で虫の発生も早まる傾向にあるとして、従来の防除時期より早めの防除を心がける必要があるとしています。
2026年は、それがはっきり数字に出た年です。県は7月15日に、イネカメムシについて病害虫発生予察注意報(第3号)を発表しました。発生量は「多い」、対象は県中部および南部です。
根拠として挙げられているのが、7月上旬に県内32か所で行われた水稲でのすくい取り調査(イネの上を網ですくって虫の数を数える調査)の結果でした。
- 水稲での発生ほ場率は平年比495%、頭数は平年比400%。特に県中南部で多い
- 畦畔などの雑草での調査でも、発生ほ場率が平年比225%、頭数が平年比152%
- 気象庁の1か月予報でも平均気温は高い見込みで、カメムシの活動・増殖に適した条件が続くと見られている
さらに同じ注意報の中で、早植コシヒカリ(5月5日移植)は7月25日に出穂期を迎えると予想されると、具体的な日付まで示されました。7月のうちに出穂するという前提で動く必要がある、ということです。
防除の組み立ても明記されています。出穂期に1回目(不稔を防ぐため)、その7〜10日後に2回目(斑点米を防ぐため)。それでも発生が多い場合は、2回目からさらに7〜10日後に追加する、という形です。薬剤抵抗性がつくのを避けるため、系統の異なる薬剤をローテーションで使うことも求められています。
また、周辺より出穂が早い、あるいは遅い品種・作型の圃場は被害が集中しやすいという指摘もありました。地域の中で自分の田んぼだけ時期がずれている場合は、特に注意したいところです。
要するに、去年と同じ日付で予定を組むのが、いま一番危ない考え方だということです。散布日は地域の平均ではなく、その圃場の出穂予定日から逆算して決める必要があります。
病害虫別の防除適期
いもち病
いもち病は葉に出る「葉いもち」と、穂や枝梗に出る「穂いもち」に分けられます。
葉いもち対策の基本は、育苗箱施用剤や初期の茎葉散布で発生源を減らしておくことです。葉いもちの段階で抑えられていれば、穂いもちの発生も低く抑えられます。
茎葉散布で穂いもちを防除する場合、一般的には穂ばらみ期と穂ぞろい期の2回が基本になります。多発が心配される年は、傾穂期(穂が垂れ始める時期)に追加散布を行うこともあります。
いもち病は低温多湿で発生しやすい病気です。梅雨明けが遅い年、夜温が下がって朝露が長く残る年は、警戒度を上げたほうがよいと言われています。
斑点米カメムシ類
栃木県では近年、斑点米カメムシによる被害が目立っています。県の資料によれば、令和6年産では2等以下の格付けのうち約50%が斑点米カメムシによる被害でした。県南部ではイネカメムシによって斑点米だけでなく不稔(籾が実らないこと)も発生し、収量が10アールあたり150kg程度まで低下した事例も報告されています。
防除の考え方は、対象となるカメムシによって少し違います。
- クモヘリカメムシ・ホソハリカメムシなど:畦畔のイネ科雑草で増えるため、出穂の10〜15日前の除草が効果的です。ただし出穂期以降に草を刈ると、餌場を失ったカメムシを水田内へ呼び込む恐れがあるので注意が必要です
- 薬剤防除の基本:侵入のピークにあたる穂ぞろい期と、その7〜10日後の2回。発生程度によってはさらに追加します
- イネカメムシ:出穂期に加害されると不稔で収量が大きく落ちるため、従来より早い出穂期の防除が必要とされています。基部の斑点米を防ぐには、出穂後1週間(乳熟初期)の散布も有効です
イネカメムシは平地林などの越冬場所から水田に直接飛び込むため、畦畔の草刈りでは防ぎきれない点も押さえておきたいところです。
紋枯病
株元から発生し、上位の葉鞘へ広がっていく病気です。高温多湿と、密植・多肥の圃場で出やすい傾向があります。
防除適期は出穂前後で、株元まで薬液を届けることが効果を左右します。ドローンによる上からの散布では、株元への到達がどうしても手散布より不利になる場面があるため、多発圃場では粒剤の利用や、地上防除との組み合わせも選択肢になります。
稲こうじ病
穂に黒緑色の塊ができる病気で、いったん出ると防除できません。適期は出穂の10〜14日前とかなり狭く、この時期を逃すと打つ手がなくなります。前年に発生した圃場では、カレンダーに先に印を付けておくくらいの意識が必要です。
依頼するなら、適期から逆算で動く
ここまで見てきたとおり、水稲の防除適期は8月上旬前後に集中します。散布を業者に依頼する場合、この時期はどうしても予約が埋まりやすくなります。
実際、この時期は依頼が同じところに重なります。適期が全員ほぼ同じなので、当然といえば当然です。
散布は、風が穏やかで比較的涼しい朝方から始めます。飛行できるのは日の出から日没までなので時間の枠自体はありますが、日中は気温が上がり風も出やすくなるため、条件のよい早い時間帯に進めるのが基本です。1日に数件の圃場を回っていく形になり、こなせる件数にはおのずと上限があります。
ですので、日程の調整は早いほど確実です。目安としては、1週間以上前にご相談いただければ、他の依頼との兼ね合いを見ながら日時を組めます。逆に数日前のご連絡だと、すでに予定が埋まっていてお受けできない場合が多いのが実情です。
急に決まった話でも、ご連絡いただければ空きがあるかどうかはすぐにお答えできます。ただ、確実に適期に当てたいのであれば、出穂の見込みが立った段階で一度声をかけていただくのが一番確実です。
依頼する側で早めに動いておくと調整がスムーズになる項目を、チェックリストにまとめました。
- 自分の圃場の出穂予定日を把握する:品種と作期から逆算します。地域の防除暦や指導機関の情報が基準になります
- その日から適期を割り出す:穂ばらみ期=出穂7〜10日前、穂ぞろい期=出穂後数日、というように、必要な散布日を先に書き出します
- 早めに問い合わせる:最低でも1週間以上前、できれば出穂の見込みが立った段階でご連絡いただけると、希望日を押さえやすくなります。数日前ですと予定が埋まっていることが多いです
- 農薬を手配しておく:当社を含め、農薬はお客様手配としている業者が少なくありません。ドローン散布に対応した登録内容かどうかを、ラベルで必ず確認してください
- 圃場の情報をまとめておく:面積、場所、隣接作物、住宅や道路との距離、電線や防風林などの障害物
- 近隣への周知を段取りする:隣接圃場の作物や、有機栽培・養蜂の有無は事前に把握しておきたい情報です
- 順延日を決めておく:風が強い日や雨天は飛べません。第2希望日まで決めておくと動きやすくなります
業者を選ぶ際の確認ポイントについては、失敗しないドローン農薬散布業者の選び方|依頼前に確認したい7つのポイントにまとめています。
適期を考えるときの注意点
地域の防除暦が最優先です。 この記事の日付はあくまで一般的な目安で、品種、作期、その年の気象、地域によって前後します。JAや農業振興事務所が出す防除暦・発生予察情報を必ず確認してください。
近年は前倒し傾向にあります。 栃木県の資料でも、高温により水稲の生育ステージが1週間程度早まっており、害虫の発生も早まる傾向にあることから、従来より早めの防除を心がけるよう呼びかけられています。去年と同じ日付で動くと、それだけで遅れることがあります。
1日のうちの時間帯も適期のうちです。 気温が高い時間帯は薬液が蒸発しやすく、上昇気流でドリフト(薬剤の飛散)も起きやすくなります。風の穏やかな早朝に作業が集中するのはこのためです。
私の場合も、飛ばすのは比較的気候が安定している朝方から午前中が中心です。風が落ち着いていて、気温もまだ上がりきっていない時間帯のほうが、条件を揃えやすいためです。
ただし、周辺で養蜂が行われている場合は別の配慮が必要になります。県の注意報でも、ミツバチの活動が最も盛んな午前8時から12時を避け、可能な限り早朝または夕方に散布すること、あわせて地域の養蜂家に散布日を事前に周知することが求められています。該当する地域では、開始時間をさらに早めるといった調整が要ります。
ラベルの使用時期・使用回数は必ず守ってください。 「収穫〇日前まで」「総使用回数〇回以内」の記載は、適期の議論より優先されます。
混用の可否も確認が必要です。 殺菌剤と殺虫剤を一度に散布して手間を減らしたい場面はよくありますが、混用可否は組み合わせごとに異なります。
まとめ
水稲の防除適期について、要点を整理します。
- 防除は「何を撒くか」と同じくらい「いつ撒くか」で結果が変わる
- 穂いもちは穂ばらみ期と穂ぞろい期の2回が基本、多発年は傾穂期に追加
- 斑点米カメムシは穂ぞろい期とその7〜10日後、イネカメムシは出穂期と出穂後1週間も要注意
- 紋枯病は出穂前後、株元への到達が効果を左右する
- 稲こうじ病は出穂10〜14日前という狭い窓を逃さない
- 高温で生育が前倒しになっており、去年と同じ日付では遅れることがある
- 依頼するなら出穂予定日から逆算し、1か月前を目安に動くと調整しやすい
KONA-DRONEでは、栃木県下野市を拠点に、DJI Agras T25で水稲を中心とした農薬散布を承っています。料金は10アールあたり税別2,200円が目安(農薬はお客様手配)です。機体で圃場を測量し、その結果をもとに自動航行で散布するため、区画の形が整っていない圃場や、小さな圃場が点在しているケースにも対応しています。
お住まいの市町村ごとの対応状況は、公式サイトの各ページにまとめています。
料金の詳細と、ご相談から散布当日までの流れは料金・散布までの流れのページをご覧ください。
「うちの圃場だといつ頃になりそうか」「この時期に空きはあるか」といったご相談だけでも構いません。KONA-DRONE公式サイトのお問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。
参考
- 栃木県農業総合研究センター「令和8(2026)年度 病害虫発生予察注意報 第3号(イネカメムシ)」2026年7月15日
- 栃木県「カメムシ防除作戦・基本的な防除対策技術」
- 農林水産省「水稲の病害虫防除」


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